百円玉のこころ

1

 F県への出張から戻り、契約を終え、重くのしかかっていた肩の荷がようやく降りたわたしは、東部線の下り方面へ向かう電車に揺られて、彼女のマンションを目指していた。
 携帯のメールでその旨伝えると、『まだ私も帰ってないから先に上がっていいよ。鍵持ってるでしょう?』と返ってきたので、ありがたくその申し出を受けることにした。
 それにしても、とわたしは思う。世の中は便利になったものだ。
 窮屈な六人掛けシートの右隅で小さく伸びをしながら、なんとはなしに周りを眺めてみる。乗客はスーツ姿の中年男が大勢を占めていて、時折パンツルックの女性が散見される。午後十一時台の車内は空気が重い、というより疲れている。定期的に繰り返される走行音と、車掌の鼻声が疲れた身体を心地よく弛緩させてくれている気がした。終点までまだ遠い。しばらく眠っていても、だいじょうぶだろう。わたしは目蓋を閉じると、心地よい振動に身を任せることにした。

 お客さん、終点ですよ、起きてください、という連続性を伴った声がひっきりなしに頭に響いてきたところで目が覚めた。肩を強く揺さぶられているような気がする。目を開けると、制服姿の車掌がわたしの顔を覗き込んでいた。わたしは、事の重大性に気づくと、車掌に詫びをしてから鞄を抱えてあわただしく電車を降りた。
 ホームの人工的な光が目に眩しい。何かの夢を見ていた気がするが判然としない。彼女が借りてきた映画を二人してぼんやりと観賞していたところまでは覚えている。
 改札をくぐる。南北に長いコンコースから案内に従ってニ番出口方面を目指す。構内で営業しているコンビニエンスストア以外は軒並みシャッターを下ろしていた。
 わたしはコンビニエンスストアに入ると、適当につまみや切らしていた替え刃を購入することにした。店内では有線で誰かの歌が流れているけれど、誰の歌かは結局わからなかった。そういえば、音楽、というか流行に疎くなってひさしい。抜け毛の数が増えた。上司の勧めで馬券にも手を出した。順調に加齢の一途を辿っているなあ、と痛感する。四捨五入はできればしたくない。
 会計の最中、若い女性店員が覇気のない表情でレジを打っているのがやたら印象に残った。自分が疲れているからそう見えるだけかもしれないが、疲弊している人間が街に増えた気がする。社会情勢がそうさせているのなら、あまりにわたしたちは無力だ。いつわたしも職にあぶれ、疲弊の螺旋に取り込まれるか知れたものではない。
 ありがとうございました、もなしにさっさと自分の作業に戻っていく店員を横目で見ながら自動扉をくぐり抜けた。
 ゴミ箱に放り込む前にいちおうレシートを確かめると、計一〇五〇円とあったので、ああ、これは天の配剤だなと思った。しかも、担当は向井と書いてある。偶然とは面白いものだ。
 丸めて捨てようとしたレシートはわたしの気まぐれで内ポケットに忍ばせることにした。彼女が聞けば、さぞあきれかえることだろう。そんな様子が目に浮かぶようだ。何を子供じみたことを、と。わたしもクリーニングに出す頃には忘れているだろう。何で紙屑を入れているんだ、と。
 そうして、マンションへ向かうため、レンガで舗装された夜道を歩き出そうとしたときだ。「すみません」と誰かに呼び止められた気がした。
 胡乱げに振り返ってみると、若い男が突っ立っていた。柄物のシャツに色落ちしたジーンズ、それに履き古した雪駄という出で立ちの、いかにも若者然としたその男は確かにわたしに用事があるようで、ウルフカットの髪を掻きながら、もう一度「すみません」とわたしを見ながら言った。
 その薄い顔立ちにわたしは見覚えはない。会社ないしサークル時代の後輩かとも思ったが、こんなところで出くわすはずもない。わたしは警戒心を強めると、「なにか」、と固い調子で言った。
 ひょっとすると宗教関係の人間かもしれない。だとすればこんな時間に迷惑きわまりないが、予想に反して男は困ったような顔をするだけだった。積極性が足りないな、とわたしは漠然と思った。あのテの輩は往々にして、前向きなのだ。前向きだから、行動に疑いを持たない。それに、二人一組で行動を共にする、とも聞いた。信心深いからこそ、少しでも食いついた人間を確実に入信させようと連携する。その働きぶりはサッカーの鉄壁なディフェンスを連想させた。
「どこかで会ったことありますかね?」ありもしない可能性だが念のために訊いてみる。
「いえ、ないと思います。あ、ないです」男は頼りなさそうな口ぶりで早口に応える。
「どういったご用件で」わたしは手短に済ませたい一心でその場を素早く去るためのプロセスを実行していく。近頃はぶっそうな世の中だ。うっかり背中を見せて取り返しのつかないことになってしまっては元も子もない。
 男は、まだ二十そこそこの大学生のように見えた。コンビニの照明が煌々と男の左半分を照らす。無精ひげすらも縁遠いその若々しさに、少しだけ羨望と追憶がよぎった。わたしが大学生の頃は人からどう見えていたんだろう。きっと、頼りなくて生意気な若者だったにちがいない。
「あの、怒りますか」と、しばらくして大学生風の男が言う。
「どうして」と、即座にわたしが問い返す。
 わたしには怒る理由もなければ、危害を加えられるような兆しもなかった。往来する人々がわたしたちに一瞥をくれる。「ど真ん中だと、邪魔だね」
 できるだけ、コンビニ側の壁面に寄るよう誘導する。店内で立ち読みをしていた中年男が目を上げると、わたしたちをガラス越しに睨みつけてきた。「それで、何故僕が怒る必要があるんだ」 
「それは、えっと……」彼は、何故か言いよどむ。それに、さっきまでは気づかなかったが、彼はやたらと自分の左手を気にしていた。時々、ぐっと握りこむ仕種をしている。
 わたしは、できる限りマイルドに、トラブルで困っている後輩を前にする面持ちで先を促す。「怒らないから、言ってごらん」
 若者は、迷ったように視線を店内や通りすぎる人達に泳がせて、挙動不審な素振りをしていたが、やがて息を深く吸い込むと、一気に吐き出した。
「もし百円だけがあったなら、何をしたいですか?」

2

 ソファに深く沈みこんで、冷蔵庫で充分に冷やしておいた缶ビールを一気に開けると、酔いと疲労感がシンクロして、心地よい気分になってきた。蛇口を捻る音がかすかに響いたのち、しばらくして彼女が全身を上気させて戻ってくる。
「空いたよ」ドライヤーを手に取りながら彼女が言う。
「もう使わせてもらったよ」意味もなく点いているテレビに目を戻してわたしが答える。「いい湯だった」
 彼女は苦笑して、ドライヤーの熱風を吹きかける。「ウソばっかり」
「ばれてもいいウソなら、ついたほうが楽しい」わたしは、受け売りの言葉をうわごとのようにつぶやく。昔、彼女に言われた言葉だ。
「汗臭い人が近くにいると楽しくない」彼女は半ばわたしをソファから追い立てるように後ろから両肩を揺さぶる。「ほーら、とっとと入った入った」そしてわたしの脇の下に手を入れると、無理やり立ち上がらせようとするので、首を振ってバスルームに向かった。
 髪と全身を刺すように流れるシャワーを浴びながら思う。たまにはのんびりと湯に浸かりたいものだ、と。スーパー銭湯は、それはそれで風情があっていいのだが。
 浴室から出て、着替えに袖を通そうとしたところで、チャリ、と何かがわたしのシャツから落ちる音がした。それは、ちょうど洗濯機の下あたりに転がって、潜り込んでしまう。わたしは屈んで、せいいっぱい隙間に手を伸ばしてみるが、うっすらとした埃ばかりが手に触れて、あまりぞっとしない。諦めずに指先に全神経を集中しながらまさぐり続けると、やがて、何か固いものに触れた。それをどうにか中指の爪の先でひっかけることに成功すると、少しずつ慎重にたぐり寄せていく。しぜん、指先に力が入る。額から玉のような汗がこぼれ落ちる。やれやれ、これじゃあシャワーを浴びた意味がないな、と苦笑する。
 そして、どうにか手で掴み取れるところまで救出することに成功すると、なぜかわたしの中で言い知れぬ達成感が生まれた。なにを大人げないことに夢中になっているんだ、とも思わないでもないが。
「なにやってるんだか」いつの間にか彼女がわたしの後ろで立っていた。洗濯物を抱えて。
「楽しいことだよ」わたしは悪びれもせず言った。前を隠すのも忘れて。
「百円玉」ソファにあぐらをかいて座っている彼女ができあいのカクテルを口に運びながら言う。「それは失礼ね」
 冷蔵庫で放置されていたオレンジリキュールとコーラを目分量で混ぜただけのいい加減な代物だが、ないよりはいい。わたしは冷凍庫に氷をしまいながら、言った。「まあ、そう言うな」
「何の話」彼女が目を向ける。
「できあいのカクテルの話じゃないのか?」わたしはその視線にささやかな非難の色を感じつつも、答える。
「百円玉の話」
「ああ……」わたしは安堵の息をつく。そして、妙に挙動不審な若者の姿を思い出して、目を細めた。なんと形容していいか、よくわからない若者だった。身なりや髪型、話しぶりも今時の若者という感じで、取り立てて何の感想も浮かばない。そういえば、今年入社してきた新人たちも似たような雰囲気をまとっていたので、ひょっとすると単にわたしの人を見る目が紋切り型になりつつあるだけなのかもしれない、と猛省する。
「失礼よ」
「失礼、ねえ」
 彼女の言葉を反芻する。たしかに、いきなり見知らぬ男に百円を手渡された経験などないので、一般論でしかその行動の是非は語れないのだが、どちらかといえば、失礼かもしれない。くたびれきってはいるが、仮にも、スーツをまとった男がよもや明日食いつなぐための金にさえ困っているなどと誰が思うだろうか。ましてや、年上の人間に、だ。これを失礼と呼ばずになにを失礼と呼ぶのだ、と彼女は怒りを露にする。テーブルに置かれたグラスはすでに空になっている。わたしはそれをおかわりの意思と受け止めて、場末の酒場のバーテンダーよろしく、手際よくグラスを回収し、再度冷蔵庫に向かった。
「仮にそういう目的だとして」わたしはシェイカーをもっともらしい手つきで振りながら言う。「百円でいったい何ができるというのだろう」
「そうよ」彼女は力強く頷く。酔いが早くも回ってきたのだろう、薄暗い間接照明の中でも、彼女の赤ら顔がよく目立っている。「百円なんかじゃ、何もできないわ。飲み物も買えないじゃない」
「そうだね」
 厳密には百円以内で買えるものも数多く存在するが、ここは彼女に合わせておいた。百円前後の価格帯ならば、消費税でぎりぎり買えない。そういうボーダーラインを指しているのだろう。そういえば、明治時代は百円で家が建った、という話を思い出した。その一方で、自転車は三百円という当時では破格の値段で、庶民には手の届かない存在だったとか。
「用途は限られてくると思う」彼女に二杯目のカクテルもどきを手渡す。
「いっそ、警察に届けちゃえば」二杯目には軽く口をつけただけで、めんどくさそうに言う。
 たしかに、それが正論だ。見知らぬ他人から何の理由もなく譲り受けた出所のわからない金なんて気持ちが悪い。それが例え一円でも一万円であっても、だ。政治家ならば、政治生命が潰えてしまう。
 けれど、わたしは去り際の若者の寂しそうな後姿を思い出す。
(もし百円があったなら、何をしたいですか?)
 彼はたしかに、そう言った。わたしには、そんな若者の姿がどうしてもわたしをはめようとする悪意の塊に見えそうもなかった。
「せっかくだから、有効に利用しようじゃないか」と、口にする頃には、すでに心は決まっていた。きっと、わたしの結論に非難轟々となることうけあいだが、それは全部見終わってから受け付けることとしよう。「日本にはよい言葉が伝えられている。『持ちつ持たれつ』と『困ったときは、お互いさま』だ」
「いまどき、性善説なんて流行らないよ」彼女が追い打ちをかけるように断言する。それでも、わたしは根拠もない善意を信じてみたかった。テーブルの上でぽつねんと所在なさげにしている百円玉を拾い上げると、手のひらでもてあそんでみた。
「映画を、借りに行こう」

3

 深夜のバス通り沿いを二人して歩く。さすがにこの時間ともなると交通量は目に見えて減っていて、信号機は点滅式に切り替わっていた。
 まだ、六月だというのにどことなく蒸し暑い。肌にまとわりつく風が湿っぽくて、わたしたちは顔を見合わせた。
 この近くだっけ、とわたしが記憶の中の周辺地理を頭の中で思い出しながら問うと、ここの交差点を右に曲がるとすぐだよ、と彼女が言った。なるほど、向かいで立ちならんでいる数件の居酒屋がぼんやりとした明かりを漏らす中、ひときわ人工的で青みがかった照明が目に眩しい店舗がこちら側にあった。そこが、レンタルビデオ店だった。駐車場は数台停める余裕があるが、一台しか停まっていないところを見ると、おそらく、店員のものなのだろう。自転車も停まっていない。敷地の周りには二種類ののぼり旗が交互に立っていて、よく目立つように白抜きのゴシック体で宣伝文句が書かれていた。
 自動ドアをくぐり抜けるとひんやりとした冷気がわたしたちを出迎えた。彼女は「さむっ」と身震いして、恨みがましくわたしを見上げる。
「じゃあ、ちゃっちゃと借りるか」わたしはひとりごちる。ノースリーブの上に薄手のカーディガンを羽織っただけの彼女は傍目にも寒そうである。わたしたちは旧作のコーナーに足を踏み入れると、ジャンル別に整頓された棚を順に回って、うーんとひとしきり唸った。
「めぼしい作品はあった?」わたしは尋ねる。
「観たいのは、何本か」
「じゃあ、その中から選ぶか」
「でも」
「でも?」
「深夜に、ホラー系はあんまりみたくないなあ」
 棚から抜き出した何本かのDVDを見比べながら、彼女が不平を漏らす。
「自分で選んでおいて」わたしは肩をすくめる。「じゃあ、こっちはどう。結構最近の作品みたいだけど」と、自分が選んだ作品を薦めてみる。記憶喪失の猫が主人を求めて旅立つハートフルストーリーだそうだ。夕暮れの中佇む飼い主の後姿と、その足元にすがりつく雑種猫のコントラストがなんとも哀愁を誘う。
「あ、それもう見た」彼女はにべもなく言う。「正直微妙、かも」そうですか。
 ああでもないこうでもないと消去法で絞り込んでいった結果、結局十年くらい前に流行ったハリウッドの恋愛映画を借りることで落ち着いた。借りようと思えば何本でも借りることができたのだが、時間的な制約とくだんの若者に対するある種の義理堅さがわたしをかたくなにしたのは言うまでもないことだった。それは商品券や図書カードを上限分まできっちりと使い切るための購入計画を立てることにも似ていた。たかが百円、と思う。けれど、その手垢にまみれた鈍色の桜模様を眺めながら、こうも思う。ここまで、よくがんばったなあ、と。
 会員証はお持ちですか、と無愛想な店員が尋ねる。いえ、持ってませんと答えると、ケースを袋にしまって、投げやりに手渡す。
「雨」彼女が店を出るなり言った。「まさか降るなんて思わなかった」
「雨足が強くならない内に急いで帰ろう」わたしは真っ黒い空を見上げ、冷たい雫が手のひらにかかるのを確認して言う。のぼり旗が温い風に吹かれてはためいていた。

「災難だったわ」奥の寝室で彼女が愚痴る。「ただでさえこの時期、乾くのが遅いのに」
「まあ、そう言うな」わたしはリビングのハードディスクレコーダーと格闘しながら、ニュアンスで返答する。配線がややこしいことになっているので、つなぐのにも、はずすのにもひと苦労だ。タコ足配線は現代人の天敵かもしれない。「よし、ついた」
 起動画面とスピーカーから音が出ているのを確認して、わたしは安堵する。
「準備できたの?」彼女が暗闇の中でのそのそと起き出す。
「ああ。それと服を着ろ」目に毒だ、とは続けずバスローブを指差す。
「めんどくさい」
「社会的動物の義務だ」
「はぁい……」
 わたしがバスローブを寝室に放り投げると、見ちゃダメだからね、と今更のように言った。まったく。これで教鞭をとっているとは信じたくもない。
 袋からDVDケースを取り出すと擦り傷だらけのプラスチックケースと色褪せた主演俳優二人が見つめあっているジャケットが真っ先に目に入った。盤面を取り出してみると、想像を裏切らない、無数の細かい傷。同封されていたレシートにもいちおう目を通す。計百円の文字がなんとも痛快だった。一泊二日の料金なので明日には返しに行かなければならない。
「あ」わたしは目を見張った。まったく、偶然と呼ぶには都合がよすぎる。今日の日付と取り扱いナンバーの後に販売員名が記載されていて、そこには、またしても向井とあった。この世の中には向井姓以外存在していないのではないかと信じたくもなる。
「なににやついてんだか」いつの間にか彼女が定位置に陣取っていた。目をしょぼつかせて。
「楽しいからだよ」わたしは間接照明の映りこんだ映像記録媒体をディスクトレイに載せる。雨の中、今にも踊り出しそうな気分で。
 結論から言うと、睡魔には勝てなかった。
 ハリウッドスターの今も色褪せぬ名演技、極上のオーケストラが睡眠薬にとって代わった。
 なんとも失礼きわまりない話である。

 それから、何週間か経ったある日。
 再び彼女の家に泊まる機会のあったわたしは、出社間際にコンコースの片隅で営業しているコンビニエンスストアに立ち寄ることにした。
 朝八時台の人波はあわただしい。一歩でも立ち止まればたちまち社会の荒波に飲み込まれてしまいそうだ。どことなく断続的に尾を引く倦怠感と眼精疲労を自覚しながら、朝の空気を深く吸い込んで、吐き出した。
 混雑を縫って、軽食を手にレジへ並ぶと、どこかで見たことのあるような男が忙しさを感じさせない余裕すら感じさせる爽やかな面持ちで、接客にいそしんでいた。長身に制服姿がよく似合っている。きっと大学生くらいだろう。髪型はいかにも今風の若者という感じで、大学時代を思い出して、どことなく懐かしい気分になった。前の客がこちらへどうぞ、ともう一人の店員に誘導されていった。その内にわたしの順番が回ってくる。
「お会計、九百円です」
 細かい硬貨はあいにく持ち合わせていなかったので札で支払う。
「こちらお釣り、百円です」
 親切にも、わたしの手の上にしっかりとお釣りを渡してきた。
 手のひらの上に載せられた鈍色の桜を見ながら、ふと思う。
 いつかの不思議な若者のことを。
 ――もし百円があったなら、何をしたいですか。
 しかし、そんな失礼きわまりないことができるはずもなく、手持ち無沙汰で行き場を失っていた百円玉は、レジの横に設置された透明な募金箱へ吸い込まれていった。
 これからもがんばれよ、誰かさんのために。

(了、09.7)

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