これっきりチョコ

 義理チョコってさあ、と美咲は切り出した。
 深夜のファミレス。人はまばらで、学生しかいない。
 どいつもこいつも馬鹿話か秘密話に興じている。幸せだねえ。
 オレは味の薄いオレンジジュースを一気に煽ってから、生返事を寄越した。事実、めんどくさいのだ。話題も、こいつも。
「どうしてみんな無理してあげようとするんだろね」
「さあね」
 美咲は口を尖らせる。無理もない。そもそもソリが合わないと思う、オレ達は。語学の講義で『たまたま』意気投合し、隣の部屋に住んでさえいなければ。
 ――めんどくせえ。オレは心の中で再度呟くと、コップを持って席を立った。
 ねえ、と彼女。
 何だよ、とオレ。
「だったら無理しなきゃいいのにね。そしたら――」
 その続きはなかった。何かを堪えてるように見えたから。
「ごめん。帰る」
 でも、それきりで。
 テーブルには綺麗に包まれたチョコだけが残されていて。
 どうやら逃がした魚はデカかったらしい。
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