午前九時の教習所

「うん。じゃあ次は、S字とクランク行ってみようか。まずは一時停止をして、安全確認をして。ゆっくりでいいからね。何事も慎重に越したことはないからね。僕なんか慎重すぎて彼女に逃げられちゃったけどね……はは、無駄話が過ぎてしまったね。前方から人が来たから気をつけてね。薄暗いからぶつからないように。……行ったか。さっきのやつは無愛想でね。この前、ぼくがあいさつしたときなんか無視されちゃったよ。まったく、なっとらんねえ。あ、そこ右ね。朝礼でもっとびしっと言ってやらんと身につかんのかねえ、最近の若いやつは。真面目一辺倒なのもいいけど、もっと遊び心を持ってもらいたいねえ、僕みたいに。あ、いや、クラッチペダルのほうが決まってたかな? じゃあ、後は直線だから飛ばしていこうか。ぐっと踏み込んで」
「店長!」前方から怒鳴り声。
「おお、丸川くん、どうしたんだい」
「台車で遊ばないでください。いい年なんですから」
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