早鐘

 七時のニュースが終了し『大人になれないオトナたち』と題された番組が始まり慌ててテレビを消した。
 どうせどこかの専門家が表層だけをなぞった意見とも呼べない意見未満の感想を垂れ流すだけの三十分間が続くだけだろう。気象予報士の胸を拝む以外の目的で公共放送を観る価値など無いと思った。
 男は時間を持て余していた。行動を起こすための言い訳のプロセスばかりが最適化され世間を俯瞰した気になっていた。じきにそんな思索も持て余し、口癖と同期した妄言を掲示板へ書き込んだ。

「時間が短縮されればいいのに」

 書き込みに賛同する意見もあれば揶揄する者もいた。だが書き連ねるたびに「またいつもの奴か」と反応は薄れていった。
 あるとき男はふと気になって脈拍を調べた。錯覚ではなかった。尋常ではない速さで脈が動いていた。時計の短針が秒刻みで動いていた。ニュースサイトが次々と新しい話題で押し流されていた。
 こんなはずではなかったと後悔するには遅すぎた。自動化された時間は男から人間性を喪失させるには充分だった。空腹を覚え、眠ることにした。
 ウェストミンスターの鐘が鳴り響く。給食は冷凍みかんだった。
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